もえぎ設計 2023.09.19
Blog『しまもと里山認定こども園』大谷理事長にインタビュー
京都と高槻市の間に位置する大阪府島本町。歴史ある水無瀬の山と川に囲まれた自然環境を生かし、里山のイメージで計画した認定こども園です。「しまもと認定こども園」は高槻市に法人本部を持つ社会福祉法人照治福祉会が、2020年の秋に5ヶ園目のこどもの施設として竣工した木造の建物です。当時の設計事務所とのやり取り、できあがった園に対する感想を伺いました。
ーーー時の経つのは早いもので、園庭の緑がずいぶん育ちましたね。
(大谷理事長):この秋で丸3年になるね。
ーーー現在のこどもの在籍人数など教えてください。
(大谷):現在は213名です。おそらく今年度中には定員いっぱいの200名の1割増上限に達する予定です。来月には0歳児が3名入ってくる。2歳児が多くて、今年0歳児の定員を減らして幼児に割り振ったばかりなんだけどね。
ーーー0歳児が3名も入ってくるなんてすごいですね。
(大谷)最近は育休明けの満1歳児が多くて、育休明けすぐの12ヶ月。逆にほとんど無くなったのは、産休明けすぐの0歳児。育児休業が給付金の支給率も上がって浸透してきたからでしょう。
ーーー0歳児の保育って、どう思われますか?
(大谷)どうだろうねー、難しいね。本来ならば、家庭だけでない子育て力や地域の子育て支援があれば、0歳児は家庭で育てるのが良いと思っている。なぜならば、子育ての文化が継承されていかないし、そのことによる弊害も出ていると思う。重要なのは「皆んなの中で育つ」と言うこと。確かに保育園にこどもを預けると家庭の負担は減るけれど、まかせっきりにしないで家庭でもこどもとの関係を考えて欲しい。
ーーーそれは大切なことですね。
(大谷)ただ何よりも避けたいのは家庭の事情による格差で、こども達の平等が損なわれる状況があってはならないということ。そういう意味では、集団の中のより良い環境でどの子も育つ質を担保し、こども達がリラックスして寛げる場所を保障できる保育園で0歳児を預かることは意味があると思っている。その為に環境を整えること、建物もそうだし人の配置も大事だね。
ーーー0歳児室を一番良いところに配置しようと、最初からおっしゃっておられましたね。 ここは周囲の環境にも恵まれていると思いますが、木造で平屋建てにこだわられたのは?
(大谷)本来、人が2階に住むのは普通じゃないと思っている。地面で生活するのが基本で、いつでも外に出られるし、外と繋がっているのが保育の環境として必須だと思う。0歳児でも幼児でも、落ち着いて地に足のついた保育が大切。 木造は、暖かさや柔らかさなど雰囲気が全く違う。命が育つ場所だから、建物も生きていて欲しい。変化することは、良く変わることや枯れていくことも含めて、こどもの保育の場としてふさわしい。年数なりの変化は劣化ではなくこどもの育ちと同じで、ある意味成長と言ってもいい。
ーーー本物の木はお勧めですが、反ったり、凹んだり、割れたりという面もあって、採用してもらえないこともありますが?
(大谷)そんなこと当たり前だし、気にすることじゃない。人も同じで、そんな事を言っていたら保育なんかできない。朝の登園時、全保護者と顔を合わせることを目的に外に立つ期間を決めてるんだけど、明らかにイラついて「戸が開きにくい」と言う保護者がいるわけ。でも「木製で すからね。いいでしょう」と返すと「あっ」となる。こどもと一緒で都合が良い事ばかりじゃない。それ以上に得られる「いいですね」と思う瞬間、ほっこりする良い部分を思い出してもらう。生きものは総じて「面倒くさい」でもそこが面白いと思うんだ。
ーーー乳児棟・幼児棟・給食棟と分棟で計画したことについてはいかがですか?
(大谷)ちょっと離れていることによって、良い関係が築けているように思う。一緒じゃない良さというのかなあ。幼児たちが遊戯室で体操なんかしていると、園庭で遊んでいた乳児がいつの間にかテラスに並んで見ている。靴のまま上がって先生に注意されているけど(笑)春先なんかは、泣き続ける乳児にそっとお花を摘んで渡す幼児がいたり、微笑ましい。少し斜めにずれて向かい合う関係が良いのか、お互いに呼び合ったり感じ合うことが多いようだ。
ーーー保育室から中廊下・外部テラス・園庭という内から外へのつながりの場を設けましたがどのように活用されていますか?
(大谷)中廊下や外部テラスのように、部屋でも外でもない中間的な場所って大切だよね。煮詰まって居場所がないこどもにとっては、クールダウンする大事な避難場所。「節分の鬼」のような得体の知れない怖いものがあっていいと思っているから、階段下や小屋裏といった、ちょっと身を隠して落ち着くスペースが必要で、全てが見渡せてオープンじゃなくてもいい。安心な場所が あるということが、物に対する愛着にも繋がっているようにも思う。
ーーー安全の確保に気をつけながら、そういうスペースもどんどん作っていきたいですね。 ところで、これからの展望などお話しいただけますか?
(大谷)今一番の問題は、まちが失われていること。いろんな人が出入りできる地域、老人や障害をもった人、誰でもが集まれる場所を作りたい。何かで繋がったり、繋がらなかったりする一つのコミュティー、小さい地域を作りたい。今回、分棟で建てるということにチャレンジしたのは、こども単体の施設ではあるけれども乳児と幼児では全然違う。いろんなこども達が集う場として、ここが端緒になって開いていけたらと思っている。
ーーー園庭開放などに力を入れられているのもその為ですね。
(大谷)そうだね。場所あるから人が集まるのか、人が集まるから場所ができるのかわからないけど、建物の力って大きいと思う。この建物に来た人がここをどう使うか、コミュニティーが広がる場になって欲しい。せっかく人が集まっても、制約や駄目なことが多ければ人の輪は広がらない。今度ここで島本町地域の子ども食堂が5つ集まって、合同カレーパーティーを開催する予定。そんなイベントの中で、また色んな特技を持った人たちが繋がって広がっていく。皆んなの場所なんだからどんどん使って欲しい。 最近、こどもの声が騒音だとか園への苦情が寄せられることがあるけれど、普段から顔を合わせて地域との関係性ができていればそうはならない。そのためには、建物をどうつくるか、どう使うか、そしてどう開くかが肝心。
ーーー地域の話が出ましたが、島本町とはどんなところですか?
(大谷)古くから住んでいる人は、歴史や環境に誇りを持っているし、移り住んでいる人達は島本町を選んで来ている人が多いように思う。島本の環境を愛し、どちらかというと効率や利便性から距離を置きたい人という感じ。
ーーー「しまもと里山認定こども園」を支える職員について教えてください。
(大谷)現在の職員は52名。その中には、子育て支援専属の担当職員2名も含みます。
ーーー専属の子育て支援担当の職員がいるって凄いですね。
(大谷)そうだね。園庭開放は土曜日も含めた毎日午前中にやっているから、来園組数は年間1,000組を超えている。先ほども出た子ども食堂や、一時預かり保育の他、里山広場、うたと絵本講座、赤ちゃん広場、リトミックなど地域支援事業には色々と力を入れているので、職員の配置は大事だね。
ーーー今のこども達と家庭に必要なものを日々考えて、地域に園舎を開いてこられたんですね。
(大谷)お陰様で、うちの園では2人目や3人目の子どもを出産する保護者が多くて、歳が離れてもう一人とか、少子化をあまり感じることがない。
ーーーさて、摂津峡認定こども園の新築、たつの子認定こども園の改修に引き続き、3ヶ園目のお仕事としてお声掛けをいただいた訳ですが、わが社の評価をお聞かせください。
(大谷)うーん・・・デザイン力、雰囲気がいい・・・波長が合っている。細やかでもなく、抜け目がなさそうでもない(笑)ちょうどいい、バランスが取れているって感じかな。もちろん高い専門性やアイデア、信頼感、安心感・・・何よりも、事業主も作り手として一緒に作っている感じがする。「こうです!」と押し付けてくる専門家タイプではなく、上手く押したりひいたりしながら進めていくところがいい。 ただ、行政と上手く折衝して、淡々とスケジュールをこなすタイプではない。時々、本当に忘れてるんじゃないかと思ってヒヤヒヤした事があったね(笑)
ーーー申し訳ありません(笑)恐れ入ります。
(大谷)でも、色んな業者、設計事務所と仕事をしているけれども、また一緒にやりたいと思うナンバーワンだから。これからも、どうぞよろしく。
ーーーありがとうございます。一番嬉しい言葉です。本日はお忙しい中、素敵なお話をありがとうございました。これからもよろしくお願い致します。
2023年 5月 24日 晴れ
聞き手:川本真澄
文:成宮範子
写真:sarugraph酒谷薫